我が子殺害
「アンナ・カレーニナ」の「不幸な家族にはそれぞれ不幸の形がある」という一説は、モスクワ北東部で火曜日の夜に起こった悲劇をよく言い表している。若い父親が仕事から帰ると、5歳長女と3歳長男が窒息死しているのを見つけ、妻は酩酊状態でヒステリーを爆発させていた。これは社会的底辺層の話ではなく、拘束された25歳女性はゲームプログラミングの専門家で、有名な数学者の娘だった。近所の人はこの夫婦に変な素行はなかったという。何があったのか。
オリガとタメルラン（仮名）は3ヶ月前ごろからタイニンスキー通りの家で近所の人に目撃されていた。男はいつも親切で礼儀正しく、女は静かで無口なタイプ。子供達は屈託がなかった。
『エレベータで男の子に会った時、「元気？」って聞いたんです。そしたら真面目な顔をして「生きるのは楽じゃない、僕がいたずらするとママがすごく怒るんだ」って答えたんですよ』（住人）
11月17日深夜、警察や検事、捜査当局が住居に押しかけた。警察を呼んだのはタメルラン。彼が日中妻と電話で話した時、子供らを幼稚園に連れて行ったと話した。これに夫は驚いた、なぜなら長男は風邪をひいていたし、娘の幼稚園はコロナの影響で自宅隔離になっていたからだ。それにオリガの声色が少し変だった。夫は家に向かったが、妻がドアを開けず、中に入れなかった。タメルランは一旦職場に戻り、鍵を取って家に入って、唖然とする。子供達は数時間前に息を引き取っていた。妻はかろうじて何か喋ろうとするが、意味不明な事しか言わず、床にはほぼ空になったジンのボトルが転がっていた。
子供達は枕で窒息させられたとみられる。容疑者は、実の母親だけ。彼女は精神鑑定に送られる。
この出来事に衝撃を受けているのは近隣住民だけだ。オリガと親しくしていた人は、家庭に問題があると知っていた。しかし、誰もこのようなことが起きるとは想像できなかったが。
『オリガは人嫌いでした。すごく閉鎖的で、人付き合いをしません。思いがけないことをする人で、例えば、少し前、急に男みたいに髪を刈り上げたり。常に自分探ししてるような、人生における自分の役割が何か理解できないような感じでした』（オリガの友人）
オリガの父親は有名な数学者。ゲームの数学的モデリングに関して著作が多数ある。母親は3年前に亡くなった。その死の少し前から理性が曇り始めたようだ。
タメルランはウズベキスタン出身、モスクワで携帯修理や白タクをしていた。コーヒハウスで働いていた時、同じバイトのオリガに出会う。オリガがエリート街の実家で彼氏を紹介した時、家族は困惑した。身分違いも甚だしい、彼は出稼ぎ労働者、娘は生粋のモスクワっ子で人文科学大学の学生。しかし、結婚が成立。子供も生まれた。
それから、世代の対立、根本的に異なる人生観など。タメルランはモスクワ的家族の生き方が気に食わず、享楽的な義父とも過度に自立を掲げる妻とも相容れなかった。義親は自宅に娘夫婦に住まわせ、引越す。しかし、親の監督なしで若夫婦だけでは生活を送ることができなかった。オリガは、警察に被害届こそ出さなかったが、夫に殴られると漏らしていた。結局、彼女は離婚申請をし、タメルランの荷物を踊り場に放り出し、自宅を外国人外交官に貸し出すと、子供と共に去った。しばらくして彼女は父親に対し、暴君(夫)に見つからないように、内緒でモスクワ北東部に家を借りたと話していた。
オリガは自分の時間を子供と過ごした。コロナ感染流行の合間、夏には彼らと海へ行った。最初タメルランは離婚には応じないつもりだったが、のちに撤回し、8月に離婚が成立。オリガは新しい人生が始まったようだった。
しかし、秋になり、深い鬱になる。オリガは突然電話に出なくなり、家族がいくら連絡してもメールで短く答えるか無視するようになった。家族がカウンセラーに相談したところ、楽しい動画などで気分転換させる提案を受けた。近所の人は彼女がビールを飲んでいるところを見ている。タメルラン（如何様にかして前妻を探し出し、子供達に会うために来ていた）の度重なる訪問もストレスになったようだ。オリガが最後に書いた投稿では、
『超最悪な気分、電話する力もない。何もしたくない。何も意味がない』『受診したら、なるようになるって言われた。何も何にもならないし、意味がない。全部消えろ、嫌になった、もう無理』
こんな気分で11月17日火曜日目を覚ましたのだ。ジンを飲み干して。子供たちの部屋に…。
※後に、まず素面で犯行を行ってから酒を飲んだと供述している。
出典記事はこちら 。
※3月2日から11月18日までのロシアの新規感染者数グラフ。ここ1日のロシアの新規感染者20,985人、合計で1,991,998人。
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